建設現場において、足場の安定性は作業員の命に直結するほど重要です。その中でも「控え（ひかえ）」の取り方は、安全な足場を構築するうえで欠かせない要素の一つです。
控えの設置が不十分な場合、足場がぐらついたり、最悪の場合は倒壊してしまう危険性があります。この記事では、控えの必要性から設置方法、安全基準、そしてよくある失敗例までを詳しく解説します。
現場で働く方々はもちろん、これから建設業界に入ろうとしている方にもわかりやすく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
足場の安全性を高めるための控えの取り方とは？
この章では、なぜ控えを設置する必要があるのか、どのような役割を果たしているのかを解説します。
足場を転倒・崩壊から守るための補強
控えとは、足場を外部から支える補強部材のことです。これにより、強風や地震などの自然の力に対しても、足場が倒れにくくなります。
特に、壁に面していない側や外周部分に設置することで、足場全体のバランスを保ちます。
足場は高所作業を支えるためのものなので、転倒すれば大事故につながる可能性があります。
そのため、控えを設けることで事故を未然に防ぐための「命綱」とも言える存在です。
外部からの力に耐えるために必要
足場には、作業員の体重や工具・資材の重み、そして風圧など、さまざまな力がかかります。
控えは、そうした力に対抗するための支えとして働きます。特に強風時には、風にあおられた足場が揺れたり、ずれたりするリスクがあります。
控えを正しく設置していれば、こうした外部からの力に対しても足場をしっかりと安定させることができます。
まさに「見えない力」で足場を支えているのが控えです。
建物に接する箇所が少ない現場では必須
建物の形状や配置によっては、足場を固定できる場所が限られてしまう場合があります。
たとえば、細長い建物や変則的な形の建物では、足場を直接建物に取り付けられる箇所が少なくなります。
このような現場では、控えが唯一の支えとなることもあり、安全確保のためには欠かせない存在です。
控えを適切に設置することで、足場の不安定さを補い、安全な作業環境を作ることができます。
足場の控えの取り方に関する基本ルールと必要な理由
控えの設置には法律で定められたルールがあります。この章では、それらの基本ルールとその背景にある理由を解説します。
「労働安全衛生規則」に定められているから
足場に関する安全基準は、「労働安全衛生規則」第564条などで定められています。
この法律により、足場の構造や設置に関する細かいルールが設定されており、控えの設置もその一つです。
規則に違反した場合は、行政指導や罰則の対象になることもあるため、現場の責任者は特に注意が必要です。
法令を守ることで、労働災害の防止にもつながります。
高さや荷重に応じて適切な間隔で設置する必要があるから
控えは、足場の高さや荷重に応じて一定の間隔で設置する必要があります。
一般的には、足場の高さが上がるほど、控えの間隔を狭めて設置する必要があります。
間隔が広すぎると、足場がたわんだり、揺れたりする原因となり、非常に危険です。
そのため、事前に足場の設計段階で、控えの位置や間隔を計画しておくことが重要です。
足場の種類によって設置方法が異なるから
足場には「枠組足場」や「単管足場」など、いくつかの種類があります。
それぞれ構造が異なるため、控えの取り方にも違いがあります。
たとえば、枠組足場では控えをスパンごとに設置するのが一般的ですが、単管足場では支柱の本数や高さによって調整が必要です。
足場の種類に合わせた設置方法を理解しておくことが、事故防止には不可欠です。
足場の控えの取り方と建設現場で守るべき安全基準
足場の安全基準は、設置条件に応じて異なります。この章では、現場で守るべき具体的な基準について解説します。
枠組足場では、垂直方向9m以下、水平方向8m以下が基本
枠組足場の場合、基本的には垂直方向9m以下、水平方向8m以下に控えを設置するのが標準とされています。
これを超えると足場の横揺れが大きくなり、倒壊のリスクが高まるためです。
また、簡易枠組足場（枠幅600mm未満）の場合は、垂直方向、水平方向ともに5.5m以下とされています。
このように、現場環境を考慮して設置基準を柔軟に見直すことが大切です。
単管足場では縦方向5m以下、横方向5.5m以下の間隔
単管足場はシンプルな構造ですが、高さが増すと不安定になりやすいのが特徴です。
そのため、縦方向5m以下、横方向5.5m以下の間隔で必ず控えを設置することが安全基準となっています。
また、足場の幅や作業内容によっても、必要な控えの数や位置が変わってきます。
現場ごとにリスクアセスメントを行い、適切に対応しましょう。
風圧や地震対策として控えの補強が求められる
控えは、自然災害への備えとしても重要な役割を果たします。
特に、強風や地震といった突発的な外力に耐えるためには、控えの補強が必要不可欠です。
風圧を受ける面積が広い現場では、控えの本数を増やしたり、より頑丈な素材を使うことが求められます。
災害時の事故を防ぐためにも、控えの補強は欠かせません。
足場の控えの取り方を間違えるとどうなる？よくある失敗例
控えの設置は慎重に行わなければなりません。少しのミスが大きな事故につながる可能性があります。ここでは、実際に起こりやすい失敗例を紹介します。
控えの固定が甘くて足場がぐらつく
控えは、しっかりと固定されていなければ意味がありません。
よくある失敗として、クランプの締め付けが不十分だったり、地面への固定が甘かったりして、控えが緩んでしまうケースがあります。
このような状態では、少しの揺れでも足場全体がぐらつき、作業員のバランスが崩れやすくなります。
固定箇所は設置後だけでなく、定期的に確認することが重要です。
控えの間隔が広すぎて足場が不安定になる
控えの設置間隔が広すぎると、足場の端の方で揺れが大きくなり、不安定になります。
特に高所や長い足場では、控えのない部分が大きな負荷を受けることになります。
結果として、バランスを崩して転落事故につながる危険性があります。
規定のスパンごと、または必要に応じて間隔を調整することが求められます。
躯体との接続箇所が破損しやすくなる
控えを建物に取り付ける際には、躯体にアンカーやコーチボルトを打ち込むことがあります。
しかし、接続位置や取り付け方を間違えると、コンクリートのひび割れや破損の原因になることもあります。
また、経年劣化している外壁などに設置すると、時間とともに固定力が弱くなってしまいます。
取り付け場所の強度を事前に確認し、安全性の高い箇所を選定することが大切です。
初めてでもわかる足場の控えの取り方と設置手順
ここでは、初めて足場工事を行う方や現場初心者に向けて、控え設置の基本的な手順をわかりやすく解説します。
控えを設置する位置を事前に確認する
まずは、足場を設置する場所全体を見て、どこに控えが必要かを判断します。
建物の構造や風の通り道なども考慮し、バランスよく控えを配置することがポイントです。
設置前に計画図を作成しておくことで、施工ミスを防ぐことができます。
場当たり的な判断ではなく、事前準備が重要です。
ベースプレートやジャッキベースを正しく使う
控えの下部には、地面にしっかりと接地させるためのベースプレートやジャッキベースを使用します。
これらを正しく使うことで、控えが地面に食い込みにくくなり、安定性が増します。
斜面や軟弱地盤では、より大きなベースや補強材を使う必要があります。
基礎がしっかりしていないと、控え全体がぐらつく原因になります。
単管やクランプを使ってしっかり固定する
控えの本体には、一般的に単管パイプを使用し、足場本体とクランプでつなぎます。
このとき、クランプはしっかりと締め付け、ずれないようにすることが重要です。
また、締め付けすぎてパイプをつぶしてしまうと逆効果なので、適正なトルクで施工しましょう。
固定が甘いと、控えが機能せず危険な状態になります。
控えの角度は60度を目安にする
控えは、足場の支柱に対して60度の角度で設置するのが理想とされています。
角度が浅すぎたり鋭すぎたりすると、支える力が弱くなってしまいます。
水平器などを使って、正確な角度で設置しましょう。
足場の控えの取り方に必要な道具と作業のポイント
控えの設置に使用する道具や、その際の作業の注意点について紹介します。
単管パイプ・クランプ・インパクトレンチを使用する
基本的な道具として、控えには単管パイプとそれを接続するクランプが必要です。
また、締め付けにはインパクトレンチなどの電動工具を使うことで、確実な固定が可能になります。
現場ではこれらの道具を常備し、いつでも対応できる体制を整えておきましょう。
道具の状態も常に良好に保つことが、安全につながります。
設置時は水平器で角度・傾きを確認する
控えの設置角度や傾きは、安全性に直結する重要な要素です。
目視だけでなく、水平器や角度計などの工具を使って正確に測ることが大切です。
特に、風が強い日や雨天時などは控えが滑りやすくなるため、細心の注意が必要です。
作業中は、常に「確認・再確認」を意識しましょう。
アンカーやコーチボルトで躯体に確実に固定する
控えを建物に固定する場合は、アンカーやコーチボルトを使用します。
この際、建物の材質や強度に応じて適切な金具を選ぶことが重要です。
間違った道具を使うと、固定が不十分になったり、建物側に損傷を与えてしまうこともあります。
施工マニュアルや設計図に基づいて、正しい取り付け方法を守りましょう。
現場別に見る足場の控えの取り方の具体例
現場の状況によって、控えの取り方や種類は大きく変わります。ここでは、いくつかの代表的な現場における控え設置の具体例を紹介します。
住宅街などスペースが狭い現場では外側控えが中心
住宅街や密集地では、足場を建物側に控えで固定するスペースが確保できないことがあります。
その場合、外側に向けて控えを設置する「外控え」が有効です。外控えは足場全体を外から支えるように設置されます。
歩道や隣家に干渉しないよう、設置場所には細心の注意が必要です。
現場では、事前に周辺の状況を調査し、必要なら仮囲いや通行制限も検討します。
高層ビル現場では躯体控えと鋼製支柱を併用する
高層ビルの建設現場では、風圧が強く、足場が長期間使用されるため、より強固な控えが必要になります。
このような現場では、躯体に固定する「躯体控え」と、下から支える「鋼製支柱（サポート）」を併用することが一般的です。
複数の控えで荷重を分散させることで、足場の安定性が大きく向上します。
設計段階から安全性を高めた足場構成が求められます。
橋梁や鉄塔の現場では特殊な控え金物を使う
橋梁や鉄塔といった特殊な構造物に足場を設置する場合、標準的な控えでは対応できないことがあります。
こうした場合は、専用の控え金物や、特殊クランプを用いて支える方法が取られます。
設置には高度な技術が必要であり、専門の職人による施工が必須です。
構造物に傷をつけないための工夫や、仮設構造計算も求められるため、事前準備が非常に重要です。
足場の控えの取り方のコツと注意点
経験豊富な現場監督や足場職人が実践している、控え設置のコツと注意点をご紹介します。
風向きや地形を考慮して設置する
控えを設置する際は、単に規則通りに設置するだけでなく、現場の風向きや地形も考慮する必要があります。
例えば、海に近い現場や山間部では突風が吹きやすく、足場があおられやすくなります。
こうした場合は、風上側に強固な控えを追加するなど、現場に即した対応が重要です。
常に「風の流れ」を意識した設計が安全への第一歩です。
他業種との作業干渉を避けるように控え位置を調整する
現場では、足場以外にも多くの業種が同時に作業しています。
そのため、控えの設置場所が他の作業の妨げになることもあります。
配管工事や電気工事の動線を確認したうえで、控えの位置を調整することが求められます。
他業種と連携を取りながら、安全と効率の両立を図りましょう。
施工前に足場計画図をもとに控え配置をシミュレーションする
控えの設置は、現場で思いつきで行うものではありません。
必ず事前に足場計画図や仮設計画図を作成し、控えの位置や角度、長さをシミュレーションしておくことが重要です。
このシミュレーションにより、作業中のトラブルや後からの手直しを防ぐことができます。
計画的な準備が、無駄のない安全な現場を実現します。
まとめ｜足場の控えの取り方を正しく理解して安全な作業を
足場の控えは、現場の安全を支える重要な要素です。最後に、この記事のポイントを振り返ってみましょう。
正しい控え設置が作業員の命を守る
控えは、足場が倒れたり崩れたりするのを防ぐ「命綱」と言えます。
控えがしっかりと設置されていなければ、どれだけ頑丈な足場でも事故のリスクがあります。
作業員の命を守るためにも、控えの取り方には細心の注意を払いましょう。
安全第一の姿勢が、すべての現場で求められます。
安全基準と現場の実情に合った控えを選ぶ
控えの設置には、法律で定められた基準がありますが、現場の条件によって柔軟に対応する姿勢も必要です。
風の強さ、地形、建物の構造などを総合的に判断し、最適な控えの種類と位置を選びましょう。
規則＋現場判断が、安全を支える柱になります。
定期的な点検と見直しが安全確保につながる
一度設置した控えでも、時間とともに劣化したり、地盤が変化したりすることがあります。
そのため、定期的な点検と必要に応じた再調整・補強が欠かせません。
足場の安全は「一度きり」ではなく、「継続的な取り組み」で守るものです。
安全な作業環境を維持するためにも、常に控えの状態に目を光らせましょう。
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